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第26回 旭ビ教養講座
2019.04.22 Monday 08:45

ssage bod

雄性不稔を利用したF1作物− 

F1(first filial generation) とは「一代雑種・一代交配種」のことですが、“近交系”を交配したときのF1品種は両親に比べて“著しい強勢”を示すことがあり(ヘテロシスheterosis)、現在F1の農作物は、“その一世代に限って”安定して一定の収量が得られる品種として知られ、多くの種苗会社が力を入れる分野となっています。

    F1作物を作る方法は、20世紀の初め頃より非常に手間のかかる「除雄」をしてから交配する方法から始まり、「自家不和合性」の利用、そして現在は「雄性不稔(male sterility)」を利用する時代となっています。自家不和合性を利用する方法までは弟25回旭ビ教養講座でお話しさせていただきました。

    雄性不稔のことをお話しに移る前に、固定種とF1種子のお話をしたいと思います。昔は固定種しかなく、すなわちとれた作物のタネを撒いて作物を育てていく、その繰り返しだったわけです。しかし、1933年にアメリカでF1トウモロコシが発表されて、固定種とF1種子を比較してみると、前者は採ったタネを播くと均一に育つのですが(自家採種可能)、後者のF1種子を蒔いても(ヘテロシスで強勢・均一になったから?) F2は株により形態・品質がばらばらで、自家採種ができません(別な言い方をすると、F1は“タネでは盗めない”とも言えます)。

    雄性不稔の話に戻りますが、F1の農作物を作るための「除雄」による交配は非常に手間がかかり、また「自家不和合性」も「除雄」程は面倒くさくはありませんが(自分の花粉で受粉してしまうという心配がないので、かなり気が楽)とはいえやはり手間はかかりました。「雄性不稔」の花は、「除雄」のようにいちいち雄しべを引っこ抜く必要もなく(そもそも最初から雄しべがない)、その傍に必要な花粉を出す別の品種を植えてミツバチを飛ばしておけば、容易にF1作物を作ることができます。

    まずは、どんな偶然、幸運、そして努力によって、雄性不稔を利用して作ったF1赤玉ねぎがアメリカで登場したか(1944年)を見ていきたいと思います。

    1925年 アメリカの玉ネギ畑で、カリフォルニア農業試験場のジョーンズ技師はやくや雄しべがない花を偶然見つけました。固定種も広い畑で栽培していると、何千何万株の花の中に1つ、ぽつんと雄しべが異常な花が見つかることがあるそうです。これは「突然変異」なわけですが、普通ならこういう「突然変異」は自然に淘汰されます。この花もやくや雄しべがなかったので子孫を残すことが出来ず、そのまま消えてしまう運命だったと思います。

    ところが、ジョーンズ技師はその「突然変異」に興味を持ち、「何とか、その子孫を作れないか」と考えたのです。ジョーンズ技師が幸運だったのは、「雄性不稔」の花を見つけたのが赤玉ネギだったということです。花粉の出ない花を持った赤タマネギは、子孫を残すためにトップオニオンというミニ玉ネギをつけていたので、彼はこれを用い、子孫を作って「雄性不稔」の赤玉ネギを増やしていきました。

    赤玉ネギは“甘く、柔らかく、水みずしい”から美味しい。しかし柔らかいがために貯蔵性に問題があり一年の一時だけにしか流通しない赤玉ネギを、彼は何とか通年で流通しているメジャーの黄色の玉ネギのようにならないかと考えました。まず、彼はトップオニオンで増やした「雄性不稔」の赤玉ネギをハウスに植え、そばに黄玉ネギのタネを撒きました。そして花が咲いたところでミツバチを使って黄玉ネギの花粉を赤タマネギの「雄性不稔」の花につけました。こうして赤と黄色の雑種のタネが生まれました。それは、赤玉ネギが50%、黄玉ネギが50%のタネです。

    翌年もこのハーフの子をハウスに撒き、更に最初と同じ黄玉ネギを撒いて、黄玉ネギの花粉をつけると、赤玉ネギが25%、黄玉ネギが75%の孫ができました。これを繰り返し(戻し交配法back cross)、“甘く、柔らかく、水みずしい”黄玉ネギが1944年に発表されました。

    その後研究が進み、作物に“ストレス”をかけると、作物が“種の保存”の危機を感じ、通常では起きない変異「雄性不稔」を起こすことがあることがわかってきました。イネ、ナタネ、ユリのように、温度や日長時間によって“稔性が回復する”環境感応性雄性不稔の報告もあります。

    二酸化炭素(CO2) は植物に十分な“ストレス”を与えるので、最近の戻し交配では、ハウスの中のCO2濃度を高めてミツバチを放ち受粉させるようです。すなわち、増やした最初のタネをハウスに巻き、花が咲くころにハウスを密閉し、CO2ボンベから入れ大気中のCO2濃度(約0.04%)の100倍以上にします。そうすると花の生理が狂うので(種保存の危機感が出る?)、そこでミツバチを放って受粉作業をさせます(ヒトの場合、酸素を運ぶのは血液のなかのヘモグロビンというたんぱく質ですが、ヘモグロビンは酸素よりCO2との親和性が高いため、高濃度CO2下では、ヒトは酸素を抹消組織まで運べず、酸欠になって死んでしまいます。しかし、ミツバチは酸素をCO2とは結合しないへモシアニンという呼吸色素で運んでいるので、その活動はCO2濃度には影響を受けません。

現在、この戻し交配法によって、たった一種の植物の雄性不稔因子を多くの植物の母親に伝え利用しています。例えば、日本では、小瀬葉ダイコンの雄性不稔因子は大根を始めとするすべてのアブラナ科野菜のF1作りに利用されています。アメリカでも、たった1株の雌(テキサス型)が増やされ、(雄花を長い鎌で落とすという「除雄」の方法から)雄性不稔の母親を使う方に変わりました。ところが、その1株の母親が持っていた遺伝子は「ごま葉枯病」という糸状菌病に対して抵抗性を持っていなかったため、1970年6月に全米トウモロコシの大不作が起きてしまいました。

一方で、なぜこのような変異が起こるかの遺伝学的な解明も進んでいます。植物は遺伝情報を、核、ミトコンドリアおよび葉緑体の3種のゲノムに分散してコードしている点で特徴的ですが、(細胞質)雄性不稔とは、ミトコンドリアゲノムと核ゲノムの特定の組み合わせで花粉発育障害が起きる現象で、核ゲノムとミトコンドリアゲノムの間に存在するゲノム障壁ととらえることができます。雄性不稔細胞質のミトコンドリアには雄性不稔の原因となるキメラ遺伝子(S)が存在し、一方、核コードの稔性回復遺伝子(R)はキメラ遺伝子産物の修飾を行なって障壁を回避していると考えられています(図とその説明参照)。

    雄性不稔遺伝子や稔性回復遺伝子も解明された植物も増えてきており、花粉飛散による生態汚染を起こさない“雄性不稔植物の遺伝子組み換え技術”の開発も行われてきています。

    日本においても、殆どの野菜は雄性不稔を利用して作られたF1となっていますが、主食である米は「コシヒカリ」を始め人工交配に基づく系統選抜による系統育種法が中心であり、雄性不稔を利用したF1のイネ(所謂、一代雑種イネ=「ハイブリッドライス」)は殆ど出回っていません。

    しかし世界的にみると、雄性不稔を利用したF1作物の最初の発表は1944年のアメリカでの赤玉ネギの発表後、ニンジン、トウモロコシ等と続き、稲も1973年に、中国で雄性不稔を利用したF1のイネ「南優1号」が誕生してから、爆発的に栽培され、1990年代には、中国の稲栽培面積のほぼ半分を占め、現在はこの15%〜20%の収量増が期待されるハイブリッドライスは世界の稲栽培面積の12%で栽培されているという報告もあります。

 

※図の説明(「植物育種学」2003、東京大学出版社、p167図6.8を一部改変)

「細胞質雄性不稔を利用したF1採種法」

上段「雄性不稔系統の維持」:(S)rrは雄性不稔ですが(劣性遺伝子rが2個あるので雄性不稔を起こさせまいとする核の機能をブロックする)、それに(F)rrをかけても雄性不稔(S)rrが生まれます。

下段「種子の生産」:雄性不稔(S)rrに(-)RRをかけると(S)Rrが生まれますが、これは不稔ではありません(劣性遺伝子rが1個では、雄性不稔を起こさせまいとする核の機能をブロックできません)。


Category : 肥料 | Author : tmek | - | - |